抜歯矯正とは何か インビザラインにおける診断と思考の実際
2025.12.20
抜歯矯正と聞くと、難しい専門用語が並び、よく分からないまま説明を受けた経験がある方も多いのではないでしょうか。
正直に言えば、私自身も「こういう説明が矯正を分かりにくくしてきた」と感じてきました。
だからこそ本記事では、教科書的な定義ではなく、日々の臨床で私自身が実際に使っている考え方だけを記します。
これは資料を引用した説明ではなく、私 新渡戸康希が矯正治療の診断を行う際に、頭の中で整理している思考そのものです。
インビザラインにおける抜歯とは、単に歯を抜く行為を指す言葉ではありません。
正常な咬合関係を作るために、どうしても十分なスペースが必要な場合に、1歯以上の歯を抜歯するという「診断結果」です。
ここで重要なのは、抜歯そのものではなく、その後のスペースをどう使うかという点です。

抜歯矯正の診断で、私が特に重視しているのがマキシマムアンカレッジという考え方です。
この言葉を聞いた瞬間に嫌になる方も多いと思います。
実際、こうした言葉が矯正を難しくしてきた側面は否定できません。
マキシマムアンカレッジとは、簡単に言えば「動かしたくない歯を、どこまで動かさないか」という判断基準です。
私は臼歯を船の碇のような存在として捉えています。
碇がずれてしまえば、全体の設計は成り立ちません。
臨床上の判断基準は非常にシンプルです。
例えば第一小臼歯を抜歯し、8mmのスペースが生じたとします。
このとき、臼歯が近心に4mm動いてしまえば、それはマキシマムアンカレッジとは言えません。
私の診断基準では、臼歯の近心移動量は抜歯空隙の4分の1以内に抑える必要があります。
8mmの4分の1は2mmです。
2mm以上動いてしまった時点で、前歯を十分に下げる設計は成立しません

つまり、マキシマムアンカレッジが成立している状態とは、8mmのスペースのうち6mm以上を前歯の後方移動に使えている状態です。
ここが確保できて初めて、リトラクションという治療行為が意味を持ちます。
リトラクションとは、前歯を舌側または後方へ移動させることを指します。
歯冠傾斜で空隙を閉鎖するのか、歯体移動としてしっかり下げるのか。
この判断も、すべて診断段階で決まります。

抜歯矯正が難しいと感じられる理由の多くは、この診断の考え方が十分に共有されていない点にあります。
専門用語を並べることが専門性ではありません。
どこを動かし、どこを動かさないのか。
その判断基準を明確に持っているかどうかが、矯正治療の質を決めます。
本記事で述べている内容は、私自身が矯正治療を行う中で積み重ねてきた考え方です。
一般論でも、メーカー資料でもありません。
実際の臨床判断を前提にした、あくまで私個人の見解です。
だからこそ、抜歯矯正を検討されている方には、治療方法の名前ではなく「どのような診断基準で設計されているのか」に目を向けていただきたいと考えています。
執筆者および医療機関情報
本記事は、矯正治療を主力とする歯科医師 新渡戸康希が執筆しています。
医療機関名
池袋の歯医者さんみんなの矯正歯科・こども歯科クリニック
住所
〒171-0014 東京都豊島区池袋2丁目2−1 ウィックスビル 9階
電話番号
03-6907-3967